ジェンダー賃金格差の解消

2022年3月8日

COVID-19パンデミックにより、世界中で賃金不平等が悪化し、ジェンダー賃金格差の解消に要する時間が延びた。

包括的な団体交渉の必要性

 ジェンダー賃金格差は、社会、経済および労働市場におけるジェンダー不平等の結果である。スペインのように、最近の法律はより幅広いアプローチを採用し、企業に対し、採用や昇進、賃金、安全衛生などで起こり得る差別を分析して、それに対応する平等計画の策定を義務づけている。

労働組合は団体交渉によって中心的役割を果たしている。団体交渉は、職場で平等を促進し、女性労働者の役割についての根強い誤解の多くに取り組む手段として利用できる。団体交渉は男女間の賃金不平等の削減に積極的に貢献することが分かっている。

意思決定や社会的対話、団体交渉チームでジェンダーバランスを確保することが重要である。女性が組合指導部でポストに就き、団体交渉チームに参加すれば、団体交渉の結果をジェンダーに配慮したものにするうえで大きな効果がある。女性が交渉に直接参加して初めて、労働協約で多くの平等問題が取り上げられる。

無給労働と育児の不平等な配分

無給労働の規模は非常に大きい。ジェンダー賃金格差の解消に向けて大きく前進するには、男女間のみならず家族と質の高い公共介護サービスの間でも、無給労働を効果的に承認・評価・配分しなければならない。

無給介護労働の70%以上を今なお女性が担っており、この量は家庭に幼児がいると大幅に増加する。平均して、育児に占める女性の割合は男性の3倍である。

無給労働と育児の不平等な分配は、男性を主な稼ぎ手、母親を主な介護者とみなす古い固定観念への逆戻りである。定着したジェンダー規範やジェンダー・ステレオタイプへの取り組みは、介護・家事責任の再分配への第一歩である。

ILOが例示しているように、不平等な配分はジェンダー賃金格差に直接的な影響を与え、母親の賃金格差を助長している。

進行中の労働組合キャンペーンは、女性がより広い経済に効果的に参加できるようにするうえで、介護(医療、教育、子どもや高齢者の介護、その他の社会的介護サービス)への投資がいかに重要であるかを示している。

ヨーロッパの多くの組合は、より平等な育児を促進してジェンダー賃金格差を縮小するために、仕事と家庭生活の調和に関する政策(育児施設の提供など)を優先している。日本では、育児介護休業法に基づき、春の交渉において、労働組合は父親の育児休暇を促進する手段について協議する。現在女性が主に担って育児を共に行うことにより、男女が共に参画できる社会を作ることが目的である。

女性の仕事の過小評価

「私たちは組合として、賃金表を取り決めているのだから、ジェンダー賃金格差はない、同じ仕事をしている男女は同じ賃金を受け取ると思っていることが多い。しかし、だからと言ってジェンダー賃金格差を助長している要因(職業分離、女性が行う可能性の高い仕事の過小評価、ボーナスや手当への不平等なアクセスなど)が自動的に取り除かれるわけではないので、それだけでは不十分だ。実施された仕事の価値を交渉の中心に据える必要がある」とクリスティン・オリビエ・インダストリオール書記次長は言う。

社会規範やジェンダー・ステレオタイプが、科学・技術・工学・数学(STEM)のような賃金の高い産業や部門から女性を遠ざけている。これらの部門の女性は差別に直面しており、そのために専門的能力の開発が難しくなっている。平均して、給料は男性の同僚よりも低い。エネルギー部門やICT部門では、全世界の賃金格差がそれぞれ31%、25%に達している。

スペインの労働者委員会からの最近の報告によると、月給の男女格差のほぼ40%が手当とボーナスである。これらの追加報酬は一般的に、身体的努力や困難作業、夜勤のような男性的側面に対するものであり、注意力や正確さ、忍耐力のような仕事の部分には報酬が与えられない。

同一賃金監査・調査のような賃金の透明性を確保するための取り組みは、女性が遂行する仕事の賃金の低さを強調するのに役立つ。ETUCと欧州の組合は、すべての使用者に賃金情報(監査)と賃金平等に関する年次行動計画を作成させ、組合が賃金格差に取り組むために使用者と交渉するうえで支援する欧州指令を要求している。

ますます重要になっているのは、ジェンダーニュートラルな職務評価や職務分類である。というのも、これは女性の仕事の評価におけるジェンダー差別に対処し、女性の技能や仕事の歴史的な過小評価に対抗するからである。職務評価計画は、同一労働同一賃金に配慮するように立案しなければ、既存の不平等を永続させる。

アイスランドの同一賃金基準は、どうすれば同一労働同一賃金を達成できるかの最優良事例として広く認められている。使用者は4つの主な基準、すなわち専門知識、責任、努力および作業環境に基づき、職務分類・職務評価等級システムによって職務を比較するために、一貫した無差別な制度が確立されているという証拠を示さなければならない。そして、各々の企業や機関にとって妥当な方法で、下位基準を策定し、比較考量しなければならない。

賃金決定にジェンダーを反映した性質がある点を考慮に入れることが重要である。さもなければ、労働協約は今後も女性の仕事の過小評価を制度化し、合法化し続けるだろう。

カナダのUSWやイギリスのユナイトのような労働組合は、賃金平等や同一賃金調査、ジェンダーニュートラルな職務評価に関する現行の法規定を改善するために、何について交渉すべきかに関するガイドラインを策定している。

弱い立場にある労働者区分

多くの国々で、インフォーマル経済の女性が女性労働者の大多数を占めている。万人のための普遍的な社会的保護を目指すキャンペーンや交渉は、ジェンダー賃金格差をなくすうえで重要である。インフォーマル経済の公式化は団体交渉を行いやすい環境づくりに役立つため、他のソーシャル・パートナーとの協力が重要である。

ジェンダー賃金格差解消の鍵は、女性のディーセント・ワークを確保し、不安定かつ低熟練・低賃金・低価値の仕事に就く女性が不釣合いに多い現状に取り組むことである。女性の低賃金雇用や低賃金部門への資源再配分に関する政治的コミットメントが必要である。

規制が最も弱く、競争圧力が最も強い傾向があるグローバル・サプライチェーンの底辺に女性が集中している現状も,ジェンダー賃金格差を助長している。多国籍企業とのグローバル枠組み協定は、労働条件の改善や、全国レベルの生活賃金や部門別最低賃金を設定するための交渉において、重要な役割を果たし得る。ACTプロセスも、サプライチェーンにおける女性の給料の引き上げに重要な役割を果たすだろう。